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加藤研究室での取り組み:ペン入力と教育 加藤直樹 2008/02/27

工学系から教員養成系の大学に移り,ペン入力関連でおもしろいことをなかなかできずに時が過ぎていたのですが,はじめて指導を担当した卒論生がペン入力関連の研究を形にしてくれたので,それを紹介させていただくことにします.


■覗き見できる電子ノートシステム
生徒がTablet PCなどのペンPCをノートとして利用する学習環境において,他人のノートを覗き見できるようにしてみようという試みです.一斉授業では演習時間が必ず設けられます.演習時間は,自ら考えて問題を解くなどの行為によって,先生から教授された知識を定着させることが目的です.しかし,生徒の中には,手を動かすことができず無駄に時間を過ごしてしまう子もいます.そのような子は,取りかかり方がわからない場合が多く,ちょっとしたヒントを与えたり,途中まで解き方を導いてあげたりすると,手を動かせるようになります.このような補助は机間指導時にしてあげるのですが,手が回らないこともしばしばです.となりの子に相談するという習慣を育てるのも大切なのですが,そういうことができない子もいます.そこで,せっかくノートが電子化されていて,その内容の転送も容易なのだから,他の子のノートを見られるようにすればいいじゃん!というのがこのアイデアです.
ここで,だれでもいつでも他の生徒のノートでも見られるようにするのには問題があるでしょう.どの生徒にどの生徒のノートを見せるかは,先生の判断が必要であり,その判断は授業運営における重要な点です.そこで,先生が手元のPCでその指定を行ったときのみ,指定された学生のノートを指定された学生が覗き見できるようにしました.また,見せたいノートを書く生徒の解答ペースは速いことが多いので,見せる部分を限定したいことがあります.そこで,タイムバーで容易に見せる部分の筆記時間帯の指定や編集を行えるようにしました.覗く側の生徒は単純にノートを見るだけでなく,ペンPCの特徴的機能である筆記再生機能を利用できるようにしました.解答の筆記状況を見られることについて,三浦らは,“筆記再生によって,他の生徒の解答をより深く考えたり,自分の解答と比較したりする様子が観察された”と報告しており[1],学習によい効果があると思われます.一方,覗かれる側の生徒にとっては,認められる感覚を得られることから学習の動機付けが期待されます.さらに,見られることの意識が強くなると,他人が見てわかる解答を書こうと努力するようになり,理解が深化する効果も期待できます.
この研究開発はまだ始めたばかりで,お恥ずかしながら,上に書いたような教育的効果を検証できていません.きちんと効果を検証するためには,実際の教育現場での実践が必要なのですが,このコラムコーナーでも紹介されている青学大や3/1のセミナーで紹介される和歌山市の小中学校のようなペンPC環境が私の身近なところにはありません.もし,この研究の実践に興味が持たれた方がいましたら声をかけていただけるとうれしいです.


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■筆記過程を記録した連続静止画像からのインクデータの生成
Table Top Computerの研究を最近よく目にします.Table Top Computer=ペン入力ではありませんが,ペン入力を採用しているものも多くあります.リコーのInteractive Station[2]は,たとえばMicrosoft Wordを起動しておき,表示・入力面にマジックペンで筆記すると,その筆記をWordに貼り付けることができます.この製品の特徴は,入力動作が単にテーブル面にマジックペンで書くことであるため,複数人で同時に筆記できるという,従来のペン入力機器で課題であった同時複数入力を可能にしている点です.一方で,筆記のコンピュータへの取り込みはカメラによる動画か静止画であるため,筆記データに対する処理の自由度は低くなってしまっています.そこで,筆記の過程を撮影した連続静止画像から,ペン入力タブレットなどから取得できる筆点列(インク)データを生成して,様々なオンライン手書きパタン認識処理を施せるようにしてしまおうというのがこの研究です.
連続静止画像の撮影速度が筆記の速度に対して十分速ければ,画像の差分をとることでこの目的を達成できますが,撮影間隔が長くなるとその方法は使えなくなります.考案した手法の一つは,(1)最終画像から端点や曲がりの強い点など特徴的な点を抽出し,(2)連続静止画像の最初の画像から順に抽出した点が含まれているかを調べ,筆記された順番を推測する,というものです.特徴点の抽出方法や,一枚の画像にはじめて含まれる点が複数あった場合の順番付けなど,まだまだ探求すべき課題は多くありますが,30fpsで撮影できることを前提とした場合,ひらがなであれば,Microsoftの文字認識エンジンで95%以上の認識率を達成しており,実現の可能性を示すことができたと思っています.


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■ペン入力機器を教育の道具にするためには
教育分野はTablet PCや電子白板などのペン入力機器の適用分野として昔から取り上げられてきました.おそらく,書くことが教育活動の多くの時間を費やすことや,書く活動自体が教授や学習に重要なことと考えられているからでしょう.私もペン入力を採用した教育環境の研究開発をいくつか行ってきました.前述した一つ目の研究はまさしくこの分野ですし,二つ目の研究で扱ったTable Top Computerも教育への利用が期待されています.ところが,実際の教育現場では,なかなかペン入力機器を見かけることがありません.見かけたとしても埃をかぶってことが多いのが現状です.電子白板はコンピュータ教育開発センター(CEC)や各メーカの努力で知名度も広がり,普及も進みました.しかし,すべての学校のすべての教室への配置には程遠い状態です.ペンPCを生徒に使わせる環境にいたっては,富士通による三木市での試みや先にも示した和歌山市の例を除けば皆無に等しいものがあります.教育のための道具は,その道具が向いている場面で利用できればよいのですが,使いたいときにはいつでも使える存在,特別な道具と意識しない存在である必要があります.また,どこの学校でも利用している,利用できることも重要です.ペン入力機器の有用性が見直され研究開発や実践研究が活発になりつつありますが,ペン入力機器を上記のような存在のものにしていかないと,研究成果も絵にかいたモチになりかねません.文科省の号令で進められていた校内LANの整備さえままならない状況で,ペン入力機器の整備などとてつもない難問です.しかし,教育をターゲットとしてペン入力関連の研究や開発を行っている者は,解決に向けてなんらかの行動をとっていくことも必要なのではないかと思います.


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[1] M. Miura, S. Kunifuji, and Y. Sakamoto: AirTransNote: AnInstant Note Sharing and Reproducing System to Support Students Learning, Proc. of ICALT2007, pp.175-179, July 2007.
[2] 新西, 伊賀, 桜井:Interactive Station:デジタル情報に手書きできるテーブルトップコンピュータ, HI2007論文集, pp.245-248, 2007.
※加藤研究室Webサイト:http://www.u-gakugei.ac.jp/~naoki/